そんな風だから、私は起業して軌道に乗ったとはまだ言い難い。ある統計によると起業してからの生存率は1年後に40%、5年後15%、10年後6%…と続く。実に1年後には半分以上が廃業していることに驚かれるに違いないが、私自身の経験でも、いつ廃業の憂き目に合ってもおかしくはなかった。うまく行かない理由を調べると、事業計画が甘いとか、資金繰り計画が云々とかいったことが言われるが、私の経験から話すと、そんなものうまく行かなくて当たり前なのだと思う。何故ならすべて分かって事業を始めるわけでなく、まだ経験していないことをするのだから。周りの状況も刻々と変わるなかで、事前に考えた通りうまく行くと考える方がどうかしている。でも、だからと言って、決して事業計画や資金繰り計画が無用だと言っているわけではないので、念のため。
起業に必要な要素はいろいろと言われているが、私はまず自分がどんな強みを持っているのか、何で社会に貢献できるのかを知ることが大前提だと思う。それが、例えば私のように、FC店や代理店を始めようとするような場合でもそうだ。金さえあれば手軽に始められるとはいえ、やはり自分なりの持ち味を出さなければ、他の同様なサービスとの差別化ができず、市場に埋没してしまうだろう。自分なりの味付けが必要だと思う。私はそれを起業後に気付き、見直していったために余計な費用や月日を要してしまった。それと、間違いに気付いた時に方向転換できる柔軟さも必要だ。私の周りでも変に意固地になってしまっている人たちがいた。それが単なる意固地なのか、逆境にも負けない強い意思と見なされるのかの分かれ目は、顧客のニーズを基点に判断されなければならない。
すでに触れたように、私は今なおビジネスモデルを模索中でもある。そんな中、本当に助けられているのは、人のつながりだ。信用力の大切さを痛切に感じる。だから、今はとにかく周囲から受けたことに対しては、極力誠実に対応することを心がけているつもりだ。自分の能力が至らずに、相手をがっかりさせることはあっても、納得していただけるように頑張っている。そもそも、起業するということは、私の中では「自分の想いを後世に残すこと」だと思っている。理屈ではなく、そうでないと自分が生まれてきた意味がないと考えている。だから自分が死んだ後になっても、恥ずかしくない仕事をしたいという覚悟だ。まあ、その考え方は人それぞれだろうが、少なくとも信用力が必要で、それに基づかない仕事をしないとどんなものでもうまくはいかないのではないだろうか。
そもそも、私は退職してから起業を考え始めたが、多分普通に考えて退職するという選択肢を取ることがなかなか難しいのではないかと思う。引かれたレールから外れることが、何かとんでもなく人生の落後者に思えるのだ。私自身がそうだった。外れることが、「逃げる」ことにつながっているように思えたのだ。でも今はそれがとんでもない誤解だと断言できる。私の高校時代の同級生が集まる機会がつい最近あったが、大企業に勤めている者は一様に定年を目前にして、話題はいかに残りの日々を大過なく過ごすかばかりを話し合っていた。それはそれで一つの生き方かもしれないが、少なくとも私は人生の最後までチャレンジし続ける方がカッコよく思える。たとえそれがはかばかしい成功をもたらすものでなくても、最後は納得して死にたい。そんな仲間が増えれば、もっともっと世の中は面白くなると考えている。