翌日、東京にあるITに関係するその会社に連絡をとったところ、東京に来て詳しい話を聞かないかとの誘いを受けた。「わざわざ東京まで?」との思いが少し浮かんだが、すぐに直近のアポを取った。電話を切った時には、すでに「これで残りの人生を賭けてみるか」と考えていた。こんな時、私はブレーキが効かない。それで東京に乗り込んだ時には、契約に向けて障害になりそうな点をひとつずつ確認していった。そして、最後にその会社との代理店契約を結ぶ時に、個人事業主のままではダメなことが分かった。「分かりました。会社を設立します。それまで待ってもらえますか?」。あくまで私は前向きだった。
それから急いで会社設立の準備へ。とはいっても、その①でもお話ししたように、設立の登記に関しては全て会計事務所任せ。私自身は打合せに1、2回会計事務所に出向いただけで、ほとんど何もしなかったに等しい。それよりも、社名の決定、社印の作成手配、住所、電話番号をどうするのかという基本的なものから、営業の準備としてホームページの作成、営業ターゲット、それに基づいた営業先リストの作成もできるだけ整えようと考えたりして、やるべきことは山ほどあった。私はそうした準備のため急に忙しくなった。
その忙しさ自体は、まだ楽しめるものだったから何の苦痛もない。それより、用意していた自己資金があっという間に少なくなっていくことが心配になってきた。例えば、ホームページの作成を業者に依頼する場合、その相場はあってもいいかげんなもの。私はインターネットを使ってアイミツを取って決めたのだが、もともと定価などない業界。自分では慎重に決めたつもりでも、後になってその業者のアフターフォローが十分でなく、結局高くついたことに「失敗した」と振り返って感じている。
そのほか、もう少し準備をして設立に臨めば、例えば会社の登記費用についても、今では行政からいろいろな支援があることも多く、それらをうまく活用すれば安く済ませることも可能だ。そんなことは後々になって知ったことで、その時の私に分かろうはずもない。しかし、そうした積み重ねが後々重くのしかかってくることになる。何か一つ準備をしようとすれば、大体それをカバーするような業者が存在していて、例外なく「安さ」を強調してくる。営業先のリストなどもそうだ。それは1件いくらで売られている。それらを自分で作るか、買って済ませるか。一つ一つ買っていると大変なことになるのだが、私はある程度の投資は仕方ないと思っていたので、ついどんぶり勘定になってしまった。
とにかく、私は一日も早く会社を設立し、IT関連会社との契約を結び、営業に出て成果を手にしたかった。会社の設立自体は1か月ほど待たされた。会社を設立しからは即、IT関連会社と契約を結び、急いでそのIT関連会社の研修を受けることになった。研修はまた東京で行われた。2泊3日の研修で、できるだけ安いホテルを探して参加した。ITの基礎知識に若干の不安はあったものの、それでも何とか研修が終われば、いよいよ待ちに待った営業開始だ。私はその時まで容易に売れることを信じて疑わなかった。売れない理由が分からなかった。私は自身満々で営業に乗り出した。