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真新しい名刺を持ち、鞄の中には説明の際に用いる資料や実際に提案の具体的な例を見せるためのタブレットを入れ、いよいよ迎えた営業初日。私はまずそれまでにリストアップしていた自宅付近の葬儀会社を対象に、いきなりアポなしで訪問しに行った。それほど自信満々だった。1件目、過去に同様の提案を受けて検討したことがあるという。窓口で応対した担当者は、その際ネックになったのが価格だったと打ち明けたことで、それより少し低い価格を提示した。後日、最終的には断られるのだが、私は1件目から「見込み客」が見つかったことで、ますます気を良くした。

しかし2件目にたまたま話を聞いてくれた担当者は、「うちではその手の話しは一切断ることになっています」とこっそり打ち明けてくれた。3件目も、大阪を中心にチェーン展開しているその店では、「本部に提案して欲しい」とのこと。本部の連絡先を聞いて退散。4件目もまったく同じ。5件目、窓口で応対してくれた人は、ほとんど関心がなさそう。適当な返事をしていたので、憤慨して帰った。事前に作ったリストでは、6件目以降もチェーン店だったため、ほとんど成果なく今日はここまでにして出直すことにした。

家に帰って、チェーン店の本部を調べたら、九州や関東に本部を置くところを外すと、家から行ける範囲で本部のあるところが以外に少ない。それでも、その本部に電話をかけると、ほぼ一様に「以前他社からも同様の提案を貰っている」だったり、「同様の提案を受けて話しを進めている」といったところだったりした。その時の私は「え?他社って?」という感じ。事前の情報収集ができていなかった。ITのその会社と契約を結んでいるのは私だけではなかった。そんな当然のことが、実際には頭からすっかり抜け落ちていた。目ぼしいところはすでに同業他社が当たっているのだ。

思惑が外れた私は、アポ(約束)なしで直接営業に出るのは早々に止めて、電話でまずアポを取ることにした。結婚式場、大学、スポーツセンター、自動車教習所、住宅展示場…。しかし、興味半分でアポの取れるところもあったが、そういった同業者なら思いつくようなところは大概、すでに他社が先行して白黒の判断がついていた。それ以外に何か私でなければ提供できないサービスが必要だった。いきなりつまずいてしまった私は、次に考えたのが、直接営業はせずに、紹介してくれそうなところと手を組むことだった。

私は商工会議所やいろんな私企業が主催する異業種交流会に参加をし始めた。商工会議所ならまずその会員になる必要があったが、それも必要経費として割り切って考えた。地域で催される朝会にも出席をした。中には会費として10万円を納める必要のあるものまであった。その成果として、みるみる名刺はたまっていった。いろんな企業の方と知り合いになれた。それらの話は面白いし、実際に参考になるものもあった。でも、それだけだった。仕事の成果に結びつくようなものはなかなか出なかった。何故か。プレゼンの能力が劣っていたからか。そうじゃない。今だから分かる。信用力がなかったのだ。

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